趣味の盆蚕

「しゅみのぼんかいこ」とは、盆栽を楽しむように小規模に養蚕を楽しむという意味で、ブログ筆者の造語です。略称は「ぼんさん」

お蚕さんのはじまり(神奈川県)

 昔、ある百姓家に美しい娘があった。娘はたいそう馬が好きで、厩で寝起きして馬の世話ばかりしていた。そうしているうちに馬と心が通い合い、やがて娘は馬とねんごろになってしまった。

 

 怒った父親は馬を山に引いて行き、大きな桑の木に吊るして殺してしまった。そして馬の皮をはいで持ち帰り、庭の片隅に干しておいた。

 

 それを見た娘は泣き叫び、やがて病気になってしまった。娘が病の床についてから七日目に、空が突然かきくもり雷鳴がとどろきはじめたかと思うと、馬の皮が飛んできて、娘をくるんでどこか遠くの空へ連れ去った。

 

 ある夜、父親の夢まくらに娘が現れて、来年の春に馬の形をした虫がわいたら、それを自分だと思って桑をあたえて育ててほしい、と言った。

 

 翌年の春、父親が庭の片隅で藁ぼっちを片づけていると、馬の形をした虫が藁の中に沢山わいてうごめいていた。父親は夢の中で娘が言ったことを思いだし、虫に桑の葉を与えて育てた。やがて虫は大きくなると白い糸をはき、美しい繭を作った。

 

 これが繭玉のはじまりであり、お蚕さんのはじまりだという。今でもお蚕さんの背中には馬の蹄の模様がある。

『日本の民話6・房総神奈川編』より、要約しつつ抜き書き

類話:馬頭娘(中国の伝説)、おしらさま(日本、東北地方の伝説)

 

# 「お蚕さん」と書いて「おこさん」と仮名が振られている。

# お蚕さんの背中に馬の蹄のあとがあるという部分は、衣笠姫系の伝説では「お姫さまが継母にいじめられ、厩におしこめられたせいで馬に蹴られたため」と説明されている。馬頭娘系の伝説ではなぜ背中に蹄の跡が残るのか、考えるとエロい想像になってしまうのでやめておく。