8月28日:「桑くれ」の話
四齢五日目です。
この時期には餌を枝ごとやっています。
お蚕に桑をやることを、群馬で祖母などは「桑をくれる」と言ってました。
標準語でも上から目線の表現だと「褒美をくれてやろう」みたいに言いますけど、群馬のちょっと古い言葉だと「やる」ことを「くれる」って言うみたいです。わたしの世代だと、もう群馬方言も少なくなっていて、わたし自身はネイティブスピーカーではないのですが。
その「桑くれ」について少し書きます。
1. 一齢(孵化したばかり)は若い葉を刻んでやる
若い葉といっても、枝の一番先にあるやわらかい葉はすぐにしおれてしまいますから、それより一段下の、ちゃんと開いているけどまだ柔らかい葉がいいそうです。それを、包丁かハサミで 2cm くらいの幅に切って与えます。この幅はわたしの自己流なので、どのくらいの幅がいいかは工夫してみてください。
なんで切るかっていうと、実はよくわからないんです。
お蚕は葉のふちから食べ始めるので、小さな蚕がふちを見つけやすいようにするためだと聞いたことがあります。確かに育った蚕は葉をふちから食べ始めます。
でも(前にも書きましたが)、若齢(一齢、二齢くらい)の蚕は葉が柔らかければ真ん中からも食べるんです。
ではどうして切るのでしょうか。
これはあくまでわたしの考えですが、葉は乾燥すると丸まってしまうので、お蚕がまきこまれて出てきにくくなります。それでは新しい餌を食べにくいので、切ったほうがいいんじゃないでしょうか。
また、葉が多少固くても切ってやればふちから食べられる、という配慮なのかもしれません。
いずれにせよ、お蚕さんになるべく餌を食べてもらおうという昔からの知恵なのです。
2. 二〜三齢は葉をまるごとやる
うちでは二齢くらいから葉を切らずにやってます。お蚕は種類によって大きさも違いますし、成長の速度も違います。餌を食べる様子を観察して、まだ丸ごとは早いかな、と思ったら二齢でも刻んでやったほうがいいかもしれません。
この時期はお蚕もまだ小さくて、歩く力も弱いですから、葉を枝からとって与えます。
3. 四〜五齢は枝ごとあたえてもよい
この時期になるとお蚕はぐんぐん大きくなり、歩く力も強くなります。そうなったら枝ごと切ってきて与えても大丈夫です。
お蚕の餌やりは、古い餌の上に新しい餌をのせ、お蚕が移ったら餌ごと移動するというやり方です。お蚕たちは勝手に枝をはって餌をさがします。
こう書くと、逃げてしまうんじゃないかと思うでしょうが、そこが不思議なところです。お蚕は、よっぽどお腹がすいてもザルに紙を敷いただけの蚕座から逃げ出しません。
桑の葉を食い尽くすと、枝をはい回って餌を探すだけなのです。
千年以上昔から日本中で養蚕が行われているにもかかわらず、野性のお蚕がいないのはそのためです*1。
以上は桑の葉を与えて育てる場合です。桑のある季節ならば、いつでもお蚕さんを飼うことができます。
現在は人工飼料があり、桑のない真冬でもお蚕を育てることができます。ただし、人工飼料はお蚕さんからすると、あまり美味しくはないらしいのです。
生まれてすぐに与えれば、人工飼料を食べて育ちます。途中で桑の葉に切り替えることもできます。
でも、桑の葉を与えて育てたお蚕に人工飼料をやっても食べないそうです。