趣味の盆蚕

「しゅみのぼんかいこ」とは、盆栽を楽しむように小規模に養蚕を楽しむという意味で、ブログ筆者の造語です。略称は「ぼんさん」

9月5日:ずぅになるということ〜上蔟

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 掃き立て(孵化)から約23日後、とうとうお蚕たちが「ずぅ」になりました。

 

 ずぅというのは、お蚕が成熟して繭になる準備ができた状態のことで、たぶん群馬の言葉だと思います。地方ごとに違う言葉で呼んでいるかもしれません。

 より専門的な言葉だと熟蚕(じゅくこ、あるいは じゅくさん)というみたいですが、祖母などは「このお蚕さんはずぅになったけど、こっちのはまだだよ」などと言ってました。

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 ずぅになると、お蚕は餌を食べなくなります。

 青白かった体が少し黄ばんで見えることがあります。

 体の、特に胸脚と腹脚の間くらいが透けてきます。

 体が少し縮んで一回り小さく見えます。

 

 子供の頃に、祖母がずぅになったお蚕を手にとって「これはもうすぐ繭になるんだよ」と教えてくれた時、自分にはそれが昨日までとどう違うのかよくわかりませんでした。なんせ幼稚園児くらいのことですから、何万頭もいる芋虫が、どう変化しているのか今ひとつ理解できなかったのです。

 大人になってから、趣味で飼うようになり、はたして自分には「ずぅ」が見分けられるだろうかと少しだけ不安でしたが、自分で世話をしていればあきらかに違うことがわかるので、なるほど、これが「ずぅ」というものなんだなと思ったものです。

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 上の写真はずいぶん前にとったものなので、今回飼っているのとはちがう品種のお蚕の写真です。左の蚕は青白いけれど、右の蚕は少し黄ばんで節の部分が透けているのがわかるでしょうか。右がわのような状態がずぅになったお蚕です。

 お蚕さんがずぅになったら、きれいな繭を作らせるために、蔟(まぶし or ぞく)と呼ばれる足場にたけてやります。

 

 

上蔟(じょうぞく)

 お蚕を蔟にたけてやることを上蔟といいます。

 お蚕は、蔟がなくても繭にはなります。でも、平べったく小さな繭になってしまい、きれいな糸が取れないのです。

 丸く形のよい繭を作らせるために、昔の人はいろいろ工夫して蔟を作りました。かつては地方ごとに本当にさまざまな形の蔟があったらしいのですが、今よく使われているのは区画蔟とかいう碁盤の目状の蔟だと思います。

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 区画族は、上の図のような形状のものです。ボール紙に切り込みを入れて組み合わせれば自作もできます。

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 その区画蔟を、農家では上の図のような器具にとりつけて、ずぅになった蚕さんたちを大量にたけてやります。そして、天井からぶら下げておきます。

 お蚕さんはそれぞれに具合のいい場所を求めて歩き回ります。お蚕さんは、だいたい上のほうを目指して歩くらしく、上が重くなると器具ごとバタンと回転します。回転する蔟なので、この器具のことを回転簇(かいてんぞく、かいてんまぶし)などと呼ぶらしいです。

 蔟が回転すると、お蚕さんはまた上を目指して歩きはじめ、何度もくりかえしていると、それぞれの区画に 1頭ずつ入って繭をつくります。虫の性質を利用した、うまいやりかたです。子供の頃、この器具が天井でバタンと回るのが大好きでした。

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 後に立ってるのが自作の区画簇です。うまく立つようにお菓子の空き箱にはめ込みました。手前は葦のすだれを分解して、たばねて積み上げたものです。区画簇づくりが面倒になって作ったものです。

 

 今回は400頭くらいいるので、趣味の盆蚕と言うにはちょっと数が多いんです。まあ、農家では何万頭も一度に世話するので、400頭くらいほんの片手間であることは間違いないんですが。ただ400頭もいると蔟をどこに置くべきか、ちょっと悩んでしまうのですよね。

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 それで区画簇を立つように枠にはめてみました。天井にぶら下げる仕組みは作れなかったので、時折手で回転させてやります。

 しかし、この写真のものだと蔟と蔟の隙間がせますぎて失敗でした。お蚕は区画に入らず隙間で繭になってしまいました。

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 こんな場所でも繭になります。前後左右、あるいは上下に糸をかけられれば、だいたい丸い繭になります。

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 意外とお勧めなのがトイレットペーパーの芯です。芯を半分の長さに切って、こんな感じで立てておき、ずぅになったおかいこを1頭ずつ入れてやればいいのです。情緒はありませんが、形のいい繭ができますよ。お蚕さんたちにも大好評です。

 

 お蚕たちは、繭を作り始めると途中で液状の糞をするので、写真がいささか汚らしいのはご勘弁ください。# 虫嫌いの人はきれいでも卒倒ものでしょうけれど。