趣味の盆蚕

「しゅみのぼんかいこ」とは、盆栽を楽しむように小規模に養蚕を楽しむという意味で、ブログ筆者の造語です。略称は「ぼんさん」

ずぅ(繭になる直前のお蚕)はこんな感じ

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 桑を食べるのをやめ、糸を吐き始めたお蚕に光をあててみました。この透けているところに絹糸腺(けんしせん)というのがあって糸のもとになります。

 

 絹糸腺そのものは生まれた時からあるはずですが、四度目の脱皮のあとで急速に発達するようです。最終的には体のかなりの部分が絹糸腺になってしまうようです。

 

 そして、もう餌はいりません、繭を作ります、という状態になると、体の皮まで透けてきます。その状態を祖母は「ずぅ」と呼んでました。光を当てなくても目でみてわかるくらい透けてきますよ。

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 頑張って普通の光でも写してみたんですが、写真だとわかりにくいんですよね。目で見ると体の節が油で染みたような感じになってきます。そうなると餌を食べなくなり、糸をはきながら頭を8の字に動かしてはい回ります。繭になる場所を探しているのです。そういう風になったら蔟(まぶし、あるいは、ぞく)と呼ばれる足場に移してやります。

 

 そうそう、前の記事で、黄色い繭を作るぐんま黄金のずぅは黄色いんですか、とコメントを戴きました。白い繭を作る品種と成長をきっちりあわせて、並べて移したら違いが出そうな気はするんですが、こうやってちょっと見ただけでは残念ながらわかりにくいです。

 

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 この写真のお蚕も同じ親から生まれたものですが、成長が一日か二日くらいおくれていて、まだ餌を食べていました。ぱつんぱつんに育っていますし、絹糸腺はすでに発達してるんじゃないかと想像するんですけど、ためしに光を当ててみると不思議とこちらは体が透けません。普通光の下で見てもずぅになった蚕とは違っています。

 

 こういう体の変化はお蚕に限ったことではなくて、蝶や蛾の幼虫も蛹になる直前このようになります。たとえば下のページは大昔わたしが作ったものですが、

http://www.chinjuh.mydns.jp/hakubutu/musi/ageha23.htm

アオスジアゲハの幼虫は蛹になる直前に翡翠細工のように透き通って、大変美しかったです。ただ、個体差はあって、この変化があまりはっきりしないうちに蛹になってしまうものもいます。ほかにもスズメガ科の蛾の幼虫などは、それまで鮮やかな緑色だったのがどす黒く変化するなど、色の変化がある芋虫もいます。

 

ずぅという言葉の語源はなんだろう?

 お蚕が十分に成長して、あとは繭を作るだけ、という状態を難しい言葉では熟蚕と言います。読みはいろいろありそうですが「じゅくこ」「じゅくご」「じゅくさん」あたりだと思います。少し訛って「ずっこ」「じゅっこ」などとも。昔からの言葉なので地方差があるはずです。

 

 祖母はこういうのを「ずぅ(ずー)」と呼んでました。なぜそう呼ぶのか、ちょっとわからないのですが、「熟蚕」が「ずっこ」か「ずぅっこ」になって「ずぅ」になったんじゃないのかと、わたしは考えています。

 

 この件に関しては、わたしの別のブログで以前みなさんと考察したことがありまして、透けていることを意味す擬音というか擬態語のようなものではないか、長野県伊那地方では熟蚕になることを「スガク」というのでその「ス」と関係があるのではないかなど、それぞれ面白かったです。そのまとめは以下の記事で読むことができます。

 

◎眠の呼び名とずーの由来(まとめ):新・珍獣様のいろいろ

http://www.chinjuh.mydns.jp/cgi-bin/blog_wdp/diary.cgi?no=410

 ここでは表記が「ずー」になっていますが、「ずぅ」のことです。

上蔟:今回はトイレットペーパーの芯で

 上蔟(じょうぞく)は、繭をつくるための足場にお蚕さんをたけてやることです。その足場のことを「簇」と言って、音読みでは「ぞく」で訓読みでは「まぶし」などです。地方により少し呼び方が違うかもしれません。

 

 蔟はどんな形でもよくて、お蚕さんが自分のまわりに糸をかけられればそれでいいのです。今回はトイレットペーパーの芯を箱の中に立ててみました。

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 写真つい餌を食べてるお蚕のとなりに簇を置いて撮影してしまいましたが、お蚕が勝手に簇に移動するなんてことはないので手で移してやらなければいけません。ほっとくと好き勝手な場所で変な形の繭を作り始めてしまいます。趣味の盆蚕ならばそういうのも楽しいですけどね。

 

 芯の中に糸をはきはじめたお蚕を入れてやれば、勝手に繭を作り始めます。

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 庭の休み(四回目の脱皮)が12日〜14日ごろでしたから、明日か明後日にはほかのお蚕たちも繭を作り始めると思います。

お蚕さんの体の構造

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 いちばん先端にあるダンゴっ鼻のようなものが頭です。

 

眼状紋(がんじょうもん)

 ここが顔に見えるので、頭だと思っている人が多いのですが、ただの模様です。お蚕さんは危険を感じると眼状紋が目立つように体をきゅーっと縮めます。生きものはにらまれるのを恐れますから、ネズミや鳥などに狙われた時に、そうやっておどかして身を守るのだと思います。

 

 また、お蚕は上の写真のように、腹脚・尾脚で立って、胸より上を高くあげるしぐさをよくします。こういうポーズをとった時に、眼状紋を顔に見立てると馬の立ち姿に見えてきます。反った胸は馬の首ですし、眼状紋より前の部分が馬の鼻面に見えるというわけです。

 そのため、お蚕さんのルーツを説明する昔話には馬と関係したものがよくあります。たとえば東北地方の『オシラサマ』や中国の『馬頭娘』などがそれにあたります*1

 

半月紋(はんげつもん)

星状紋(せいじょうもん)

 お蚕の背中にある模様です。前のほうを半月紋、後ろの少し小さいほうを星状紋といいます。難しいことを言うと、体の第五節に半月紋、第八節に星状紋が出る決まりになっています。

 月と星、どちらもよく見るとU字型なので馬の蹄(ひづめ)の跡に似ています。そのため、お蚕さんのルーツを説明する昔話では馬に蹴られた跡ってことになっています。『金色姫』や『衣笠姫』などがそれにあたります*2。わたしは蹄の跡よりも勾玉(まがたま)に似ていると思うのですけどね。

 

尾角(びかく)

 お蚕さんの尻にある角のような突起です。やわらかいので手に刺さったりはしませんし、毒もありません。特別なんの役にもたっていないと思います。

 尾角を持っている芋虫は、たとえばスズメガ科の蛾の幼虫などが有名です。そのなかでもセスジスズメの尾角は先だけ白くなっています。

http://www.chinjuh.mydns.jp/hakubutu/musi/suzme21.htm

 これはわたしが大昔に作ったサイトですが、上から三番目の写真がセスジスズメの尾角です。こんなふうに先だけ白ければ目立つので、敵が尻を攻撃している間に逃げるチャンスができるのかもしれません。

 お蚕の尾角はなんの役にも立ちませんが、もしかするとお蚕の遠い遠い先祖たちの身を守る道具だったかもしれませんね。

 

気門(きもん)

 気門は息をするための穴です。人間で言えば鼻の穴。お蚕さんの鼻の穴は体の両脇にあります。難しいことを言うと、体の第一節と第四〜十一節の両脇にあるので、全部で九対(十八個)あることになります。

 

胸脚(きょうきゃく)

 胸肢(きょうし)とも言います。難しいことを言うと、体の第一節、第二節、第三節に一対ずつ、合計六本の胸脚があるといことになります。

 胸脚は成虫になっても残る足です。

 

腹脚(ふくきゃく)

 腹肢(ふくし)とも言います。毎度難しい説明ですが、体の第六〜九節に一対ずつ、合計で八本の腹脚があります。吸盤のようにものにへばりつく足です。この足は成虫になるとなくなってしまいます。

 蛾や蝶の仲間の幼虫は、だいたい腹脚が四対(八本)あるのが決まりです。ただし、シャクガの幼虫(尺取り虫)のように腹脚が少ない例外もいます。

 

尾脚(びきゃく)

 尾肢(びし)とも言います。体の第十三節にある最後の足です。これも成虫になるとなくなってしまいます。

 

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*1:ある娘が馬とねんごろになったことで父親が激怒して馬を殺して桑の木にぶらさげる。残った娘は悲しみの余り死んでしまう(あるいは馬の皮にまかれて姿を消す)が、娘の生まれ変わりとして馬に似た虫が桑の木にわいた、というような話。

*2:継母にいじめられた娘が厩(うまや)におしこめられ、馬に蹴られて死にかける話。

形蚕と姫蚕

 

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 一口にお蚕さんと言っても、よく見ると模様に個体差があったりするものです。上の写真では右のお蚕には目のような模様(眼状紋)がありますが、左のにはありません。どちらも同じ親から生まれてきました。

 

 眼状紋がある蚕のことを形蚕(かたこ)、ないほうを姫蚕(ひめこ)と言うことが多いようです。こういうのは地方ごとに違う呼び名があるかもしれません。

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 これは背中から見た写真ですが、右が形蚕、左が姫蚕です。姫蚕でも気門(息をするところ)には色がついてたりしますから、アルビノというわけではなく、単純に模様の違いだと思います、たぶん。

 

 お蚕さんは家畜(家蟲と言うべき?)なので、良い性質が出るようにかけあわせて品種改良されています。蚕糸試験場のようなところから買ってきた蚕種(卵)からは、だいたい同じ模様の蚕が生まれてくるようです。

 

 でも、その蚕を交尾させて二代目を作ると、別の模様の蚕が生まれてくる確率が増えます。きっと遺伝学的にどーのこーのという難しい理論が働いて先祖返りしてしまうんでしょうね。模様が違っちゃうということは、繭の質なんかも厳密に言うと親の性質をひきついでいないと思います。メンデルメンデルランランルー。

 

 なお、呼び名が姫だからといってメスというわけではありません。性別に関係なく姫蚕だったり形蚕だったりします。

最後の脱皮が済みました

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▲6月13日 四度目の脱皮が終わりました。

 

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▲脱皮殻です。

 

 お蚕の世話はこれからが本番です。最後の脱皮を終えてからは餌を爆発的に食べるようになるし、病気が出やすいのもここからです。

 

そろそろ庭の休みです

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 更新をさぼっている間に次の脱皮がはじまりそうです。四度目の脱皮は「庭の休み」とか「庭の眠り」とか言われています。前の脱皮から5日くらいたっていますし、よく見ると食べ残しの桑に細い糸がついています。桑をやればまだ食べますが、食べる量はぐっと減って、すぐに頭を空にむけてじーっと動かなくなります。これが休み(または眠り)で、やがて脱皮します。

 

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 体長は50mmくらいです。孵化した直後は2〜3mmの消しゴムかすみたいな大きさですが三週間くらいでここまで育ちます。

 

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 これで70頭ほどいると思います。だいぶ減らしました(カエルの口に入ったのです…)。最後の脱皮を済ませると爆発的に餌を食べるようになるので趣味で飼うならせいぜい50頭くらいにしといたほうが無難だと思います。

 

 お蚕を喜んで食べるいきものがいないご家庭では卵のうちに数を管理するといいでしょう。卵をどこで手に入れるかにもよりますが、20〜50個くらいの数でわけてくれるところもあります。

 

 

 

三度目の脱皮が終わったみたい

 三度目は舟の休みという名前がついてます。読み方は地方によって違うかもしれないけど「ふなのやすみ」ですかねー。休みというのは脱皮の時にお蚕さんたちが食べるのをやめて動かなくなるからなんですけど、その間餌をやる必要がなくなるので世話をする人たちも一休みできる事にも由来してるかもしれないです。

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▲昨日(7日) 脱皮を待つ間、上を向いてじーっとしてます。頭の殻がはずれかけてるので脱皮がはじまることがわかります。

 

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▲今朝(8日)の様子