形蚕と姫蚕
一口にお蚕さんと言っても、よく見ると模様に個体差があったりするものです。上の写真では右のお蚕には目のような模様(眼状紋)がありますが、左のにはありません。どちらも同じ親から生まれてきました。
眼状紋がある蚕のことを形蚕(かたこ)、ないほうを姫蚕(ひめこ)と言うことが多いようです。こういうのは地方ごとに違う呼び名があるかもしれません。
これは背中から見た写真ですが、右が形蚕、左が姫蚕です。姫蚕でも気門(息をするところ)には色がついてたりしますから、アルビノというわけではなく、単純に模様の違いだと思います、たぶん。
お蚕さんは家畜(家蟲と言うべき?)なので、良い性質が出るようにかけあわせて品種改良されています。蚕糸試験場のようなところから買ってきた蚕種(卵)からは、だいたい同じ模様の蚕が生まれてくるようです。
でも、その蚕を交尾させて二代目を作ると、別の模様の蚕が生まれてくる確率が増えます。きっと遺伝学的にどーのこーのという難しい理論が働いて先祖返りしてしまうんでしょうね。模様が違っちゃうということは、繭の質なんかも厳密に言うと親の性質をひきついでいないと思います。メンデルメンデルランランルー。
なお、呼び名が姫だからといってメスというわけではありません。性別に関係なく姫蚕だったり形蚕だったりします。
お蚕さんの体の構造
頭
いちばん先端にあるダンゴっ鼻のようなものが頭です。
眼状紋(がんじょうもん)
ここが顔に見えるので、頭だと思っている人が多いのですが、ただの模様です。お蚕さんは危険を感じると眼状紋が目立つように体をきゅーっと縮めます。生きものはにらまれるのを恐れますから、ネズミや鳥などに狙われた時に、そうやっておどかして身を守るのだと思います。
また、お蚕は上の写真のように、腹脚・尾脚で立って、胸より上を高くあげるしぐさをよくします。こういうポーズをとった時に、眼状紋を顔に見立てると馬の立ち姿に見えてきます。反った胸は馬の首ですし、眼状紋より前の部分が馬の鼻面に見えるというわけです。
そのため、お蚕さんのルーツを説明する昔話には馬と関係したものがよくあります。たとえば東北地方の『オシラサマ』や中国の『馬頭娘』などがそれにあたります*1。
半月紋(はんげつもん)
星状紋(せいじょうもん)
お蚕の背中にある模様です。前のほうを半月紋、後ろの少し小さいほうを星状紋といいます。難しいことを言うと、体の第五節に半月紋、第八節に星状紋が出る決まりになっています。
月と星、どちらもよく見るとU字型なので馬の蹄(ひづめ)の跡に似ています。そのため、お蚕さんのルーツを説明する昔話では馬に蹴られた跡ってことになっています。『金色姫』や『衣笠姫』などがそれにあたります*2。わたしは蹄の跡よりも勾玉(まがたま)に似ていると思うのですけどね。
尾角(びかく)
お蚕さんの尻にある角のような突起です。やわらかいので手に刺さったりはしませんし、毒もありません。特別なんの役にもたっていないと思います。
尾角を持っている芋虫は、たとえばスズメガ科の蛾の幼虫などが有名です。そのなかでもセスジスズメの尾角は先だけ白くなっています。
http://www.chinjuh.mydns.jp/hakubutu/musi/suzme21.htm
これはわたしが大昔に作ったサイトですが、上から三番目の写真がセスジスズメの尾角です。こんなふうに先だけ白ければ目立つので、敵が尻を攻撃している間に逃げるチャンスができるのかもしれません。
お蚕の尾角はなんの役にも立ちませんが、もしかするとお蚕の遠い遠い先祖たちの身を守る道具だったかもしれませんね。
気門(きもん)
気門は息をするための穴です。人間で言えば鼻の穴。お蚕さんの鼻の穴は体の両脇にあります。難しいことを言うと、体の第一節と第四〜十一節の両脇にあるので、全部で九対(十八個)あることになります。
胸脚(きょうきゃく)
胸肢(きょうし)とも言います。難しいことを言うと、体の第一節、第二節、第三節に一対ずつ、合計六本の胸脚があるといことになります。
胸脚は成虫になっても残る足です。
腹脚(ふくきゃく)
腹肢(ふくし)とも言います。毎度難しい説明ですが、体の第六〜九節に一対ずつ、合計で八本の腹脚があります。吸盤のようにものにへばりつく足です。この足は成虫になるとなくなってしまいます。
蛾や蝶の仲間の幼虫は、だいたい腹脚が四対(八本)あるのが決まりです。ただし、シャクガの幼虫(尺取り虫)のように腹脚が少ない例外もいます。
尾脚(びきゃく)
尾肢(びし)とも言います。体の第十三節にある最後の足です。これも成虫になるとなくなってしまいます。