衣笠姫(群馬県甘楽郡)
むかし衣笠姫という美しい娘がいた。実の母が病死すると、父は新しい妻を迎えることになった。
ところがこの人は心の悪い人だった。血のつながらぬ衣笠姫を憎み、厩(うまや)にとじこめてしまった。馬が暴れて姫を踏んづけたので、姫の背中には蹄の跡がついてしまった。爺やがあわててお救いしたが、姫はしばらく死んだようにぐったりしていた。
次に継母は姫を竹やぶに置き去りにした。婆やが探し出してお助けしたが、姫は衰弱して死んだようにぐったりしていた。
三度目はたらいに乗せて川に捨てられた。爺やと婆やが探し出してなんとかお助けしたものの、姫は疲れ切ってぐったりしてしまった。
継母はすっかり怒って、四度目には庭に穴を掘って姫を生き埋めにしてしまった。爺やと婆やが気づいた時にはもう遅く、姫は息絶えていた。
それからしばらくすると、姫が埋められたところに黒く小さな芋虫がはいまわっていた。虫の体には馬のひづめのあとのような斑があった。
クワの葉をあたえて育ててみると、急に死んだように動かなくなり、しばらくするとまた動きだして葉をたべはじめる。そういう事が四度あ り、繭を作った。ちょうど姫が継母に殺されかけたのと同じ回数である。姫の一生になぞらえて、最初の休みをシジの休み、二番目の休みをタケ(竹)の休み、 三番目の休みをフナ(船)の休み、四番目の休みをニワ(庭)の休みと呼んだ。
今でも群馬では蚕を「お蚕さま(おこさま)」と呼んで大切に飼い、衣笠明神をまつっている。
過去に自分で作ったサイトよりやや手直しして転載。未来社『日本の民話8 上州・甲斐編』より要約しつつ抜き書きしたものです。
類話:金色姫(茨城県)など
*追記
動画を作りましたので、よろしければどうぞ。あんまりおしゃべりが上手ではないんですけど。いちおう絵も自分で描いております。